私の絵画世界について

個展

制作の意図
1977年 第1回個展 横浜つうりすとギャラリー
1983年 第2回個展 横浜郵便貯金ギャラリー
1984年 第3回個展 小田原アキオ画廊
1987年 第4回個展 小田原アキオ画廊
1988年 第5回個展 横浜彩林画廊
1990年 第6回個展 平塚画廊
1991年 第7回個展 横浜彩林画廊
1992年 第8回個展 平塚画廊
1994年 第9回個展 平塚画廊
1995年 第10回個展 平塚画廊 & ギャラリーT
1997年 第11回個展 横浜高島屋美術画廊
1998年 第12回個展 倉敷市立美術館
作品の特徴
作品の位置付け
画歴
個展
代表作
『楽園の寓話』泉谷淑夫展

武内 寛 

 不思議な空間である。
 しんとした静けさの中に、かすかなざわめきがあり、不穏な気配が漂っている。
 遺跡の岩へ腰を下ろす雲を突く巨人の後ろ姿、地平から中空へ湧き上がる雲の形、空には無人の熱気球が浮かび、地上の草原では、丸々と太った羊たちがのんびり群れをなしている。しかし待て、この風景の異様な気配はどこからくるのかーいつしか視線が探しものをするように動いていく。
 「雲の伝説」(1998年作)は、シュルレアリズム的細密描写をとりながら、イメージの計略、視覚上の工夫がなされているようだ。草原に羊が十三頭、中央の一頭だけが正面を向きこちらを凝視している。残りの羊たちはペアになって自由な形、ここでふと十三の数が気にかかる。ちなみに隣接の作品「風化」の羊を数えると十三頭、十三からのイメージは、例えば十三日の金曜日、キリストの「最後の晩餐(ばんさん)」に登場する十三人、これから起こることへの予言の数か。草原に群れる丸々と太った羊たちは、形を変えた現代の私たちではないのかー。
 雲を突く巨人の後姿と見えたのは、風をはらんだ羊飼の上衣、巨人の頭部は気球が止まっているだけ、中空は虚の世界の表現である。作家の思考と創造力で造り出す形態が、見る人を呪縛して離さない。
 泉谷淑夫氏(1951年神奈川県生まれ)は、岡山大学助教授を務めながら、一陽会会員として作家活動を続けているが、倉敷での個展は初、この十五年間の大作三十七点を「楽園の寓話」と題して展観、力のある作品が会場を圧倒する。一貫するのは現代の自然破壊、人間自らの罪をパラドクシカル(逆説的)に表現する姿勢、画家としての確かな技術の研鑽である。 
 「羊をモチーフにしたのは十二年前、ある広告写真で、草の中へ首を突っ込んでいる羊の群れを見て思うものがあった。いつも群れて行動し、貪欲に草を食べつくす姿は、見かけの温和さと異なる、利己的な現代人と共通するー」作家の言葉である。
 現代社会の歪み、未来の不安を寓話的に表現、社会へのメッセージを「描く」こと、技法の探究にこだわりながら続ける力量豊かな画家の出現である。

倉敷新聞(平成10年8月29日)、アート紹介より